株式会社日立製作所

CMSベンダーに聞くべきことは機能ではない、HOWである

株式会社日立製作所

「ブランドで選ばれる企業・日立」を掲げ、2000年から本格的にブランドマネジメントを導入した「日立グループ」。その一環として、2002年4月に発足した「ブランド戦略室」を中心に、Webブランド戦略に取り組んだ。これまでの日立のWebサイトの問題点を分析した結果、「ガバナンス体制の構築」、「サイト内での統一性の確保」、「運用コストの削減」という3つの課題が浮上。その解決策として、デザインガイドライン等のルールを制定し、そのルールを遵守するためのガバナンス体制を構築することになった。
しかし、多数のグループ会社を抱える日立グループとしては、これらをWebサイトに反映するためには作業工数の増加など、相当な負担が強いられることになる。そこで導入したのがCMS「NOREN4」だ。さらに、日立グループでは、デザインや情報構造をテンプレート化した「標準セット」というツールを開発。CMSをより効果的に活用する方法を生み出した。
今回は、日立グループにおける「NOREN4」の活用方法、そして「標準セット」の導入経緯、運用方法などを、日立の小林匡氏、丸田隆喜氏、泉英彦氏にお話を伺った。

白紙の状態からのサイト構築と比較して、圧倒的に効率化が図れるツール

CMSを導入することによって、日立グループとしてのWebブランド戦略を効率的に行うことができることはわかっていたが、いざ運用する段階になると、各担当者レベルに対しても、ある程度のCMSに関するスキルが必要だということに気づいた。もちろん、各担当者にCMSのスキルを習得させるには、コスト面、時間の面においても現実的ではない。そこで、CMSを誰でも簡単に活用できるよう、日立、アシスト、そして「NOREN4」のメーカーであるアイオンが、3社一体となって、「標準セット」というツールを独自に開発、運用を始めた。

CMSのスキルレスでサイトを構築できる「標準セット」

小林匡

株式会社日立製作所
小林匡氏

根津
日立さんはCMSの展開を早めるために「標準セット」というツールを開発されたわけですが、その開発に至った背景などをお聞かせいただけますでしょうか。

小林氏
まず、CMSによる展開を早めるには、多数あるサイト群全体のトーンを標準化する必要があると判断しました。特にサイト数が膨大になる弊社の場合、ひとつひとつWebサイトを作っていたのでは、工数がかかりコストもかかります。そのため、日立全体のトーンに合わせた、標準的なWebサイトを構築するための雛形サイトを用意しよう、ということでアシストさん、アイオンさんと共同で「標準セット」を作ったのです。実は、「標準セット」を作成する前にも、デザインガイドラインに沿ったテンプレートを準備していました。しかし、このページ単位でのテンプレートでは、サイトの情報構造を設定するにはCMSの技術的スキルが必要だったんです。当初、我々にもCMSに関する知識やノウハウが少なかったこともあり、なかなか運用がうまくいきませんでした。ましてや、グループ会社の担当者が使いこなすということは非常に難しい状況でした。そこで、情報構造からデザインまでをも標準化した雛形サイトを作成し、CMS上で雛形サイトをコピー、文章や画像といった会社毎に異なる要素のコンテンツを入力するだけでサイトを構築できる仕組みを発案したのです。これを日立では「標準セット」と名付けました。

丸田隆喜氏

日立電子サービス株式会社
丸田隆喜氏

根津
日立さんの場合は、さまざまな業種のグループ企業がありますよね。さすがにひとつの雛形では対応しきれない部分もあるのではないかと思います。おそらく「標準セット」とは言え、いくつかのパターンを用意したと推測できるのですが、いかがでしょう?

丸田氏
その通りですね。13~14パターンくらい用意したでしょうか。グループ会社の担当者はこの中から自社のサイトにマッチした雛形サイトをCMS上でコピーし、「NOREN4」の入力ツールを使ってコンテンツを書き換えるという形になります。

NORENの効率的活用

過去のサイトを検証してパターンを抽出

根津

株式会社アシスト
根津豊

根津
そのパターン分けには、なにか基準のようなものがあったのでしょうか?

小林氏
日立の中には、デザイン本部というデザインを専門に扱っている部署がありまして、標準セットを作る前に主要な日立のサイトを検証してもらいました。そこでパターン化をしてもらった結果、13~14のパターンが浮かび上がってきたというわけです。それを参考に、雛形となる標準サイトの作成に入りました。

根津
それだけあれば、ほぼ全てのサイトをカバーできると?

小林氏
やはり、決まり切った形にしてしまうと、あまり使い勝手が良くありません。ですので、それぞれの標準セットの中身を構成しているカテゴリを、モジュールとして組み合わせて活用できるようにしました。また、他の標準セットに使われているカテゴリをコピーして活用するようにもしました。そうすることで、ある程度汎用性の高いサイト構築が可能になり、多くのサイトで、要求を満たすものが作れるようになったのではないかと思います。

丸田氏
そうですね、使用する担当者によって思い描くページレイアウトは千差万別ですね。標準セットの資料を渡して、ひとつのタイプをそのまま使う方もいれば、カテゴリをいろいろなところから集めて、組み合わせながら使用する方もいらっしゃいます

アシストさん、メーカーさんのご尽力がなければ、ここまでこれなかったでしょう

CMS活用とガイドラインの適用との混同

泉英彦

日立電子サービス株式会社
泉英彦氏

根津
なるほど。標準セットのおかげで、かなりのサイトがガイドラインに沿った形で移行が進んだということでしょうか。

小林氏
全ては把握していませんが、多くのサイトで移行が進んでいると思います。特に今まであまりWebサイトに力を入れていなかったサイト、もしくはこれから新しくサイトを立ち上げようとしているサイトに対しては、非常に移行が早く行われました。ただ、すでに完成している大規模なサイトでは、若干移行がしにくい状況もありました。というのも、ブランディングという面では、標準セットのおかげでビシッと決まるのですが、コンテンツの量がすでに多いので、移行自体に時間がかかる。そして、コンテンツが多いため、カテゴリが標準セットに合わないケースが発生し、カスタマイズする必要性がでてくる、といった状況です。あと、サイトをリニューアルすることで、やりたいことができなくなったと、不満に思った担当者もいます(笑)。もちろん、白紙の状態からサイトを再構築することと比較すれば、圧倒的な効率化につながってはいるんですけどね。

根津
場合によっては、CMSの導入が足かせになってしまうということでしょうか?

小林氏
いえ、不満に思った原因はCMSを導入したからできなくなったというのではなく、ガイドラインに反するからできなくなった、ということの方が圧倒的です。きっと、ガイドラインの導入とCMSの導入が一緒になってしまったため、CMSを導入したからやりたいことができなくなってしまったと勘違いをしているのでしょうね。そのあたりを理解してもらうのにはちょっと苦労しました(笑)。

泉氏
基本的に、ガイドラインに沿うように、というのが大前提としてあります。CMSはそれを効率的に実現するひとつのツールという位置付けです。ですので、ガイドラインに合わせるために、CMSを使ってサイトを作れ、と指示されたことで難色を示す方はいらっしゃいますね。これは既存のサイトがガイドラインに沿っていないために指示を出すわけです。実際、CMSを使ってみて、これは便利だな、と感じている方も多くいらっしゃると思います。

小林氏
確かに、CMSを使用するところは、ずっと使い続ける傾向にありますね。ただ、担当者のスキルによって、移行が早く進む、進みにくいといったケースもあります。こうしたことで、ツールの使い勝手を検討する余地があるのかな、と思ったこともあります。

Webマネジメント運営方法

コンポーネントのパーツ化でより生産性が向上

門岡

株式会社アシスト
門岡

門岡
アクセシビリティを向上させるために、Webブランド戦略も新たな段階に入っているとお聞きしましたが、「標準セット」も進化しているのでしょうか?

丸田氏
そうですね、我々はWebサイトのアクセシビリティ推奨版への対応をフェーズ2と呼んでいます。そのころから、従来の標準セットをコピーしてサイトを作るというやり方は、実は少なくなってきているんです。というのは、サイトを構成するカテゴリ、先ほどモジュールといいましたが、そのようなコンポーネントの資産が増えてきまして、それを組み合わせるだけで、Webサイトを素早く構築できるようになってきました。

門岡
もう少し具体的にお聞かせ願えますか?

丸田氏
フェーズ2用に開発をした部分もあるのですが、その際、それぞれのコンポーネントをさらに細かくパーツ化して、いろいろなパターンで用意しました。そして、さらにそれを複数組み合わせることができるようなテンプレートに工夫したんです。組み合わせパターンが豊富になったため、素早く作成できるようになりました。実質、多少規模の大きめのWebサイトでも、2日くらいで完成します。

門岡
なるほど。「NOREN4」の機能をバックに、標準セットをカスタマイズすることで、より効果的に活用されていることがよくわかりました。そこで、ひとつ単刀直入にお伺いしますが、日立さんでは、標準セットを活用し、またそれが徐々に進化しています。同じ概念があったとしても、「NOREN4」ではなかったら具現化できていたと思いますか?

小林氏
そうですね、とにかくアシストさん、そしてメーカーのアイオンの方々には本当にご尽力頂いたと思います。それがなかったら、ここまでできていなかったと思います。そこまで対応できるベンダーを選んだということでは、非常に満足しています。

運営面でのノウハウ提供に期待

根津
最後に、これから弊社に対するご意見・期待されることなどがありましたら、お願いいたします。

泉氏
そうですね、今回初めてCMSを導入したわけですが、CMSを入れても万能ではないということがわかりました。Webサイトに関わるさまざまな設計図を最初に作るノウハウが必要なんです。つまり、運用面でのサポートですよね。今回は本当に大きな力となっていただきましたが、今後もよりいっそうご協力いただけると嬉しいですね。

丸田氏
私も、運用面での提案やサポートを期待しますね。

小林氏
欲を出せばきりがないのですが、パフォーマンスをもっとあげてほしいという期待はあります。あとは、二人も言ってますように、運用面のサポートですね。もっと良い使い方があるんじゃないかなとも思っていますので、その辺りは期待しています。

根津
そうですね。運用面は弊社の重要課題でもあります。「NOREN4」というツールをベースに、さまざまなご提案ができるよう、精進していく所存です。本日はお忙しい中、ありがとうございました。

※掲載内容は、取材当時(2006年6月)のものです。現時点の情報と異なる場合があります。

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会社名 株式会社日立製作所
URL http://www.hitachi.co.jp/
本社所在地 東京都千代田区丸の内一丁目6番6号
設立 1920年2月1日
事業内容 コンピュータ / 通信機器 / 鉄道車両 / 家電製品
従業員数 33,500人(2014年3月現在)

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